昨夜、入浴を終えたコージが、私の部屋へやって来て、こう言った。
「桃花ちゃん、母の日、おめでとーございます!」
芝居がかった物言いで、祝辞を述べたコージは、
保育園で作った、おとうさんスイッチを、私に差し出した。
おとうさんスイッチは、
良い子が、おとうさんを操って遊ぶためのリモコンさっ。
空き箱とストロー、ハサミとノリ、セロテープとマジックさえあれば、
ちっちゃなおともだちでも、自分で作れて、
おとうさんを好きなように、もて遊べるんだよ♡
おとうさんスイッチを知らなかったおともだちは、
えねえちけえ教育テレビでやってる
ピタゴラスイッチを見てごらん。
我が子に操られて喜んぢゃってる、
ニッポンのおとうさん達の無邪気がサクレツしているよ。
おとうさんを操るリモコンなら、
おかあさん達は、もう、持ってそうなアイテムだけど、
母の日の贈り物としては、シャレの効いた好適品かもしれないね。
But、この桃花サンは、
コージとサトルの、おかーちゃんぢゃないんだゾ。
この私に、マスオさんを操るリモコンを贈って、どーするんだよ?
「俺、オマエのオカンちゃうでぇ」と、ハラの中で苦笑いしつつ、
コージの顔を眺めた私は、ふっと、あることを思い出した。
あれは去年の9月、
入浴を終えたコージが、私の部屋へやって来て、居座りを決め込んだ時。
私の部屋まで息子を探しに来た、自分の母親に向かって、
コージは、こう言い放った。
「コージくん、桃花ちゃんと結婚する!」
通常、男児が性愛の対象として、最初に意識する異性は、
自分の母親ってコトに、相場が決まってる。
フロイト先生おっしゃるトコロの、
エディプスコンプレックスってゆーヤツだあね。
なのにコージが、私を結婚相手に指名したのは、なんでだと思うー?
事実関係をいちいち説明すんのメンドーだから、話を省略しちゃえ☆
実は桃花サン、出産経験こそナイものの、
新生児の時からフタゴを育ててる、育ての母だったりするんだナ。
お仕事で忙しいおとうさん・おかあさんと、フタゴが遊べるのは、
日曜日ぐらいしかないんだけれど、
おかあさんは日曜日も、しょっちゅうおんもへ、おでかけするの。
オトナにはオトナの都合があるから、
でもそれじゃ、コドモの愛情欲求が満たされないから、
ちっちゃなコージは、
この私に、エディプスコンプレックスを投影してくるんだよ。
コージの結婚相手として、指名されなかった私の姉は、
ふくれっつらして、部屋から出て行った。
遠ざかってゆく母親の足音を聞きながら、布団に顔をうずめたコージは、
「おかあさんイヤ、桃花ちゃんがイイ」と、小さくつぶやいた。
これって、母性的愛情への飢餓を訴える、逆説的表現だよね。
阿闍世コンプレックスって、こーゆー感じで形成されてくんじゃないの?
母の日の贈り物として差し出された、
コージのおとうさんスイッチは、そのまま私が、貰っておくコトにした。
自己肯定感を求めたい盛りのちっちゃい子が、
いっしょうけんめい作った工作を、叔母の私に差し出したんだよ。
彼の心情を慮ると、その場で、
「おかあさんにあげなさい」とは、とても言えなかったから。
お礼として、コージのほっぺに、けたたましいチュー♡ をしてやった後、
私達はお手々をつないで、いっしょに、ねんねした。
オトナにはオトナ同士、それぞれ都合も、思惑もあるけれど、
コージはまだ、5歳だからね。
いっぱいねんねして、いっぱい夢を見て、いっしょに大きくなろうね。
ICON by YAMA☆SOZAIYA HONPO
CLIP ART by PINKUMACHAN NO HENTEKO SOZAI